今回は『父が息子に語る 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書』について解説します。
本書は、ミシガン大学の法学および哲学教授のスコット・ハーショヴィッツさんが書いた哲学書です。
著者:スコット・ハーショヴィッツさんのプロフィール
スコット・ハーショヴィッツさんは、ミシガン大学の法学および哲学教授です。
連邦最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグの法務書記官を務めた経験を持ち、法律と道徳に関する記事を多数発表しています。
- 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書:要約
- 第1章:権利──「わがまま」を言う権利はないのか?
- 第2章:復讐──「やられたらやり返す」は平等か?
- 第3章:罰──「おしおき」は哲学的に正当か?
- 第4章:権権威──親は子どもに命令できるか?
- 第5章:言葉──言ってはいけない言葉は言ってはいけないか?
- 第6章:男女──性、ジェンダー、スポーツを考える。
- 第7章:差別──ほかの人がやったのに、責任を取らなきゃいけない?
- 第8章:知識──この世界は本当に現実か?
- 第9章:真実──ついていいウソと悪いウソはあるか?
- 第10章:心──赤ちゃんであるとはどういうことか?
- 第11章:無限──宇宙が無限なら人間の価値は?
- 第12章:神──「神さま」はいるの? いないの?
- 最後に:哲学者の育て方。
- 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書:まとめ
壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書:要約
書は、権利・罰・復讐・真実・無限などの哲学的なテーマを『最もシンプルでわかりやすい言葉』で解説しています。
本書を読めば、読者は哲学とは何か、なぜ哲学を学ぶべきか、どのように哲学を学ぶかについて知ることができるでしょう。
まず、哲学を学ぶためには、これらを心がけましょう。
- 世界は『思っているような世界』ではないかもしれないという可能性を常に念頭に置くこと。
- 哲学の問題や謎に興味を持ち、自分の答えを見つけることを目指すこと。
- 哲学の本や記事を読み、哲学の講義やポッドキャストを聞き、哲学の歴史や流派を知ること。
- 他人の話を真剣に聞き、自分の考えを明確に伝えること。
- 他人の考えに対して理由や根拠を求めること。
- 自分の考えに対して反論や批判を受け入れること。
- 自分の考えを柔軟に変えることや、自分の考えをより深く洗練することを目指すこと。
これらを踏まえて学べば、自分や世界について深く考えられるようになるでしょう。
同時に、相手と対等に会話ができるようにもなるはずです。
キャッチコピーをつけるなら『哲学で考える!哲学で話す!』です。
第1章:権利──「わがまま」を言う権利はないのか?
本章では、カントの『権利論』を軸に、道徳的責任と自由について深掘りしています。
カントは、人間の行動は理性や法律に従い、他者への影響を考慮することが道徳的責任だと述べています。
また、「わがまま」が侮辱や暴力ではなく尊敬や愛情の表現である可能性についても議論され、トロッコ問題など権利に関連する複数の哲学的問題を通じて道徳的選択の難しさが探られています。
- あるトロッコが線路を走っており、その先には5人が線路に縛り付けられている。
- レバーを引くことでトロッコの進路を変えることができる。
- もしレバーを引かなければ、トロッコは5人を轢いてしまう。
- しかし、レバーを引くと、別の線路に進路を変えることになり、そこには1人が縛り付けられている。
- どちらの選択をしても、誰かが死ぬ。
- 多数の命を救うために少数の命を犠牲にすることは正当化されるのか?
- 個人が積極的に行動して命を犠牲にすることと、何もしないことによって命が失われることの間に道徳的な違いはあるのか?
- 個人の道徳的責任とは何か?
第2章:復讐──「やられたらやり返す」は平等か?
本章では、復讐の概念とその問題点に焦点を当てています。
復讐は一見、被害者に正義感を与え、加害者への罰が再犯防止につながると考えられがちですが、実際には被害者の苦痛を増やし加害者の反省を阻害するなどの非合理的な側面があります。
代わりに許しや和解が提案されており、これらは双方に平和や幸福をもたらすとされていますが、実現には信頼や尊敬の回復・感情の認識・コミュニケーションが必要です。
復讐よりも許しや和解を選択することが、より高い道徳的水準への道とされています。
第3章:罰──「おしおき」は哲学的に正当か?
本章では、罰の概念とその正当性について考察しています。
罰は、不正や違反を犯した者に苦痛を与えることで正義感や安全感を提供する一方で、被害者に復讐心や恐怖をもたらし、加害者に反抗心や憎悪を引き起こす問題を持っています。
代わりに、教育や治療が提案されており、これらは罰と異なり、被害者に理解や寛容を、加害者に成長の機会を提供します。
罰の問題点を指摘し、教育や治療を通じたより建設的なアプローチの重要性を強調しています。
第4章:権権威──親は子どもに命令できるか?
本章では、権威の概念とその正当性に焦点を当てています。
権威は命令や指導を行う能力を持つ者や組織であり、利益や秩序を守る正当な側面と、自由や平等の侵害、判断や責任の奪取という問題点を持ちます。
服従と反抗の態度が権威に対する重要な選択肢として提案され、服従は協調や信頼を、反抗は対立や独立をもたらすとされています。
権威に対する批判的な視点を提供し、その関係を決定する際の選択肢を提示しています。
第5章:言葉──言ってはいけない言葉は言ってはいけないか?
本章では、言葉の重要性とその使い方について探求しています。
言葉は思考や感情を表現する手段であり、真実や正義を伝える役割を持つが、同時に偽りや不正を隠す手段としても使用されることがあります。
礼儀と悪態の使い方が紹介され、礼儀は敬意や好意を示し関係や評価を改善するのに対し、悪態は侮辱や敵意を示し感情や態度を強調します。
言葉の持つ影響力と適切な使用の重要性が強調されています。
第6章:男女──性、ジェンダー、スポーツを考える。
本章では、性別とジェンダーに関する哲学的問題を探求しています。
性別とジェンダーは生物学的特徴と社会的役割に基づき、複雑さと多様性を持ちます。
男女平等と不平等に関する異なる視点が紹介され、一方では男女が本質的に同じで平等な権利と機会を享受すべきと主張され、他方では男女が本質的に異なり、異なる役割や能力を持つとされています。
スポーツの文脈での男女の扱いも例に挙げられ、スポーツにおける男女の差別や不公正、固定観念や偏見の問題が探求されています。
- 男女の分離や制限は、男女の能力や価値の違いを暗示するのか?
- 男女の混合や参加は、男女の平等や多様性を促進するのか?
- 男女の表現や評価は、男女の固定観念や偏見を反映するのか?
第7章:差別──ほかの人がやったのに、責任を取らなきゃいけない?
本章では、差別とその正当化や反論について探求されています。
差別は異なる特徴や属性を持つ者への不当な扱いや評価を指し、一部の人々は集団の利益や優位のために必要だと主張する一方で、他の人々は差別が不利益や劣位を招き、偏見や無知を露呈すると反論しています。
また、差別に対する個人や集団の責任に焦点を当て、差別行為に対する謝罪や訴訟、賠償の必要性を考察しています。
差別に対してどう責任を持つか?
個人は、自分が差別を行ったり受けたりした場合に、謝罪や訴訟を行うべきか?
集団は、自分が所属する集団が差別を行ったり受けたりした場合に、賠償や謝罪を行うべきか?
第8章:知識──この世界は本当に現実か?
本章では、知識の真実性とその疑問点について探求されています。
知識は個人や集団が真実と信じるものですが、不確実性や疑いが存在します。
一部の人々は知識が経験や証拠、理性に基づくと主張する一方、他の人々は知識が錯覚や幻想、感情に依存すると反論しています。
特に、シミュレーション仮説が取り上げられ、私たちの世界が仮想現実である可能性とその新たな視点について議論されています。
第9章:真実──ついていいウソと悪いウソはあるか?
本章では、真実とウソについての議論が行われています。
真実は、誠実や信頼を保つために重要だけど、時に利益や安全を損なうこともあります。
一方で、ウソは通常非難されるけれど、利益や安全を守るため、感情や関係を保つために必要とされる場合もあるとされています。
第10章:心──赤ちゃんであるとはどういうことか?
本章では、心の存在とその性質について議論されています。
心は思考や感情の総体とされ、一部の人々は心が意識や自我を形成し、行動や判断を決定すると考えています。
一方で、心が単なる脳や身体の働き、あるいは錯覚や幻影に過ぎないとする見解もあります。
特に赤ちゃんを例に取り、彼らが意識や自我、思考や感情を持つかどうかについての疑問が提起され、心の哲学的な問題が探求されています。
- 自分や自分以外の人に対して思考や感情を持っているのか?
- 赤ちゃんは、自分や自分以外の人に対して行動や判断を行えるのか?
第11章:無限──宇宙が無限なら人間の価値は?
本章では、無限という概念とその哲学的意義に焦点を当てています。
無限は計測や理解を超えるもので、宇宙の広がりや存在に関する様々な仮説や推測を含んでいます。
一方で無限が人類の可能性や理解を拡大すると主張する立場があり、他方で無限が現実や論理に反すると考える立場もあります。
宇宙の無限性に関する議論を通じて、無限が人間の価値や理解にどのように影響を与えるかが探求されています。
- 宇宙は、自分や自分所属する集団が存在する以前や以後もずっと存在しているのか?
- 宇宙は、自分や自分所属する集団が住む宇宙と同じような別の宇宙と並行して存在しているのか?
第12章:神──「神さま」はいるの? いないの?
本章では、神の存在に関する哲学的な議論が展開されています。
神は超自然的な存在として信じられているけど、その実在には多くの証拠と反論が存在します。
神が存在するとする立場は、神が人類の起源や目的、価値観を定めると主張し、存在しないとする立場は、神は幻想や無知に基づくと考えています。
また、パスカルの賭けという概念が取り上げられ、神の存在を信じることの合理性とその問題点が議論されています。
パスカルの賭けは、神の存在を信じることの利益と損失を比較するが、神の実在を証明するものではないと指摘しています。
- 神の存在の不確実性:神の存在は不確実であり、確実な証拠に基づくことはできない。
- 賭けの選択:神が存在するかしないかにかける二つの選択肢がある。
- 利益と損失の評価:
- 神を信じる場合:もし神が実在し、あなたが信じていれば、永遠の幸福を得ることができる(天国)。しかし、もし神が存在しなくても、信じることによる損失は比較的小さい。
- 神を信じない場合:もし神が実在し、あなたが信じなければ、永遠の罰(地獄)を受ける可能性がある。神が存在しない場合、信じなかったことによる利益は限定的。
- 合理的な選択:不確実性の中では、神を信じる方が合理的な選択。
なぜなら、神が実在する場合の利益(永遠の幸福)が非常に大きいため、リスクを冒しても信じる価値があるから。
最後に:哲学者の育て方。
最後に、スコットさんは、哲学を学ぶことの重要性とその方法について、自分の子どもたちに向けて語っています。
哲学を通じて自分や世界について深く考え、対等な相手として会話する能力を身につけることができると強調していいます。
さらに、哲学を学ぶことが個人の成長と知的発展にどのように貢献するかも強調しています。
具体的には、次の3つの点を推奨しています。
1.「考える人」を育てる。
子どもたちに自分の考えを持ち、他人の考えに挑戦すること、哲学の問題に興味を持ち、自分の答えを見つけることを奨励。また、哲学の本や記事を読み、講義やポッドキャストを聞くことを勧めている。
2.「対等な相手」として会話する。
他人との会話を重視し、他人の話を真剣に聞き、自分の考えを明確に伝えること、他人の考えに対して理由や根拠を求め、自分の考えに対する反論や批判を受け入れることを教えている。
3.常に新しい視点や知識を求める。
哲学を学ぶことは終わりがなく、常に新しい視点や知識を求め、自分の考えを柔軟に変え、より深く洗練することを目指すことを子どもたちに伝えている。
壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書:まとめ
本書は、哲学を身近で理解しやすい形で提供する、非常に魅力的な本です。
著者スコット・ハーショヴィッツの豊富な経験と知識が、哲学的な問題をシンプルかつ深く掘り下げる方法で展開されています。
各章では、権利・罰・復讐・真実・無限などのテーマが、日常生活に根ざした例を通じて説明されており、読者に哲学の本質的な理解を促します。
特に印象的なのは、著者が哲学を『考える技術』として位置づけ、それを通じて自分や世界について深く考える方法を提案している点です。
哲学の問題や謎に対する興味を持ち、自分の答えを見つける過程は、読者にとっても刺激的であり、思考の深化に寄与します。
また、本書は哲学を学ぶことの重要性を強調し、対等な相手として会話する能力を育成することの価値を示しています。
これは、日常生活におけるコミュニケーションや人間関係においても非常に有用なスキルです。
全体的に、この本は哲学を身近でアクセスしやすいものとして提示し、読者に哲学的な思考を楽しむことを促します。
哲学の入門書として、または日常生活における深い思考を求める人々にとって、おすすめの一冊となっています。
哲学は、言い争うものではなく、互いの意見を交換するものです。
本記事の内容は、youtubeでも視聴することができます。
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